2 課題と解決策
(1) 広報の必要性
グランドデザインを策定する目的には,事務職員の存在意義を確認することや社会に正しく理解してもらうことも含まれます。事務処理だけに固執してしまえば,外部委託やパートまたはICTを活用した発生源入力による人員削減が進むことが予想されます。学校にとって必要な職種ではあるが,誰にでもできる職務内容では事務職員が学校に存在するための理解は得らないでしょう。また,グランドデザインと合わせて,共同実施について も理解を得るための働きかけを続けなければ,事務職員の組織化による教育の質の向上を進めることはできないでしょう。どちらにしても,
保護者,地域,関係各機関,校長会, 教頭会,学校職員などに説明し協力を得られる体制を構築しておくことは,戦略上も重要になってきます。
教員のように教育に対し直接的に関わるだけでなく,間接的な関わりを持つ職種が子どもたちの教育にとって非常に重要であるということを,保護者や地域社会,何よりも学校の職員にも理解してもらえるよう,広報・啓発していくことをグランドデザイン実行策に含めていきます。
(2) 新たな学校づくりの仕組みに対応して
現在,地域の特色を活かした学校づくりが求められています。学校の組織体制や学校運営について,「学校評議委員会」や「学校運営協議会」,「学校支援地域本部」など
地域と学校が連携して行う新たな学校づくりに向けて,地域社会をあげて子どもたちを育てていくという環境を整備していく取り組みが始まっています。これからは地域コミュニティの拠点としての学校をめざし,地域と一体となった学校づくりを進めていかなければなりません。市町村立学校に勤務する行政職員である事務職員としては,「めざす事務職員像」を実現するために地域や学校の事情を考慮し,その特性にあった取り組みを模索し,実行していく必要があります。
(3) キャリアデザインから見た「めざす事務職員像」
最終的なゴールイメージは,学校のトータルプロデューサーとしての役割が果たせるようになることです。しかし,事務職員全員が最終ゴールまで到達しなければならないとは考えていません。個人の職業観や人生設計等があるので,多様な選択肢も必要だと考えています。
研修や経験を積み重ね,どの時期にどのような力量が必要なのか等,自分が目標とする 事務職員像を探ることも大切だと考えます。
(4)事務職員の資質能力向上のための研修
「学校事務のグランドデザイン」を実行し成果をあげていくためには,事務職員の人材育成や資質能力向上が重要な課題となってきます。そして,めざすべき事務職員像「学校 のトータルプロデューサー」に近づくためにも,力量アップと能力向上はかかせません。 この事務職員の資質能力向上のためには,系統的・継続的・組織的な研修の体系化が必要になってきます。これが事務職員のキャリア形成ともつながってくるため,研修制度の充 実はこれからの学校事務を展開する上で重要な役割を果たすと考えます。しかし,現在のところ事務職員の研修体制は充実しているとはいえません。そのため,グランドデザインの実行策でも研修体制の充実を県教委等へ要望する取り組み内容が含まれています。今後,
官制研修だけに頼るだけではなく,研究団体における研修の充実を図る方法や,共同実施 を活用したOJT研修を進めることで事務職員全体の能力,力量アップを図る手立てを研 究していくことも課題といえます。また,経験や能力,職務に応じた研修体制についても 早急に研究し,実施できるようにする必要があります。
(5)責任ある安定した学校事務のためには
責任ある安定した学校事務を構築するためには,基盤となる「事務職員制度」の安定が必要です。このためには,
事務長制の導入や事務規定等の確立,行政との人事交流などが求められます。しかし現在のところ,鹿児島県の小中学校では事務長制度は導入されていません。共同実施の事務支援室においては室長がこの役割にあたるところですが,役割や権限,責任が明確とは言い切れません。組織を運営していく上でリーダーの存在と役割は非常に重要だと考えます。リーダーは責任と権限を持ち,目標を定め,支援室組織を目標達成に向けて取り組ませる役割を担います。取り組み過程も大切ですが,これからは結果やその成果も求められてきます。今後,事務職員の組織化という共同実施を進める中で, 責任者の役割と権限について鹿事研においても研究し取り組んでいきます。また,人事交流の面でも改革が必要だと考えます。現在,義務制から県立や行政へ異動した場合,ほとんどの場合戻ってくる機会がありません。
人事交流が進むことで事務職員自身の視野が広がり,より学校経営や運営に参画することが容易になると考えます。そして多様な実務経験を積んだ人材が,その経験を事務組織内へ伝達するOJT機能を働かせることで全体のレベルアップも図ることができるようになります。一方通行ではなく双方向の人事交流を取り入れることは,義務制事務職員の能力や力量の向上に非常に重要であると考えます。この点については鹿事研でも研究し,関係機関へ働きかけをしていく方向で取り組んでいきます。